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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

9月23日付しんぶん赤旗「詩壇」

『薔薇色のアパリシオン  富士原清一詩文集成』(京谷裕彰編、共和国)は、戦前日本のシュルレアリスム運動の中心にいて、知的で幻想的なすぐれた作品で注目されながら、一冊の詩集も出さず1944年、36歳の若さで戦死した詩人の全体像を明かす貴重な一書だ。
 シュルレアリスム第一次大戦後フランスで始まった芸術運動。戦争に帰結した近代への疑いから、夢や無意識の豊かさに新たな創造の可能性を見出した。日本のシュルレアリスムはフランスと比べ非政治的で美学的とされる。だが軍国主義へ向かう時代の闇の中で知性(エスプリ)の光を掲げ、自由な世界を創造する意志を突きつけた。それゆえやがてマルキシズムと同様国家の弾圧対象となる。
アパリシオン」とは仏語で「出現」。富士原の詩はどの細部も詩への純粋な意志が煌めき、未知の世界が現出する。狭い意識に囚われた「私」を解き放ち、自己妄想に駆られる国家からは遥か対極に立つ。その「自由」=「火災」がつかのま照らし出す時空は、余りにも美しい。
「‪正午‬  羽毛のトンネルのなかで盲目の小鳥達は衝突する   彼等は翼のない絶望の小鳥等となつて私の掌のなかに墜落する(略)其処に起る薔薇色のアパリシオン  薔薇色の火災は私の美しい発見である  雛罌粟よ  汝がこの絶望の空井戸の中に生へてゐて私の発狂せる毛髪の麗はしい微笑を聞くのはこのときである(「apparition」)
  戦争末期、徴兵検査で丙種だったにも関わらず召集された詩人は、乗船する船に魚雷攻撃を受け朝鮮木浦沖で絶命した。「薔薇色のアパリシオン」の美しさは、戦間期に奇跡のように詩を生きた詩人の、今の私たちへの痛切な伝言である。