岩倉文也『傾いた夜空の下で』(青土社)は、2016年から18年までに描かれた詩、ツイート、短歌を収める。「僕にとってこの本は、僕の代わりに死んでいった、言葉たちの墓標です」と作者がツイッターで述べるように、本詩集には生の危機の中で掴みとられた言葉がひしめく。絶望にあらがい生きるために記された言葉に、読者は直接身を晒すしかない。この世界の絶望に共に向き合うために。
18、9歳頃の表題作ですでに作者は、自己と世界との関係を的確に描き出している。
「ぼくは自分の孤独を守るために/目だけをぎらぎらさせて/遠く シャッターが下ろされる音に/じっと耳を澄ましていた/濃密な土のにおい/むせ返るような街の夕焼けも/とっくに摩滅しきって今は/空にはどんな反映もない」
高校中退以降生きるために詩を書き続けて来たという。社会からこぼれ落ちそうな不安が、思考を深め感受性を研ぎ澄ましたのだろう。やがて詩と出会い雑誌へ投稿を始め、数々の賞を受ける。
詩の時空はどこかつねに震えている。明示はされないが、1998年福島生まれの作者が体験した3.11の記憶が、関わっている筈だ。地面と空は傾き海は恐れられ、雪降る町は廃墟のイメージだ。大震災と原発事故がもたらした故郷の喪失に、詩によって本質的に関わろうとしている。安易な希望や絶望を拒み、言葉によるひとすじの抵抗を選んだ詩人の旅を支持したい。
「ららららと雪ふる朝の国じゅうに苦痛にうめく俺がいるのか」「はるのあさ よごれた雪をつかみとる僕らはいつもいつも祈りだ」孤独の深まりで聞いた声々に突き動かされ、さらに新たな詩に向かってほしい。