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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

HP「詩と絵の対話」を更新しました。


HP「詩と絵の対話」を更新しました。

 

今回のゲストは宮尾節子さん。南アフリカ出身の画家マルレーネ・デュマスについて書いて下さいました。

 

自分がなぜこの異色の画家に共鳴したのかー自身の奥底にあるその理由を、宮尾さんはまさに現在進行形でスリリングに抉り出していきます。デュマスの絵とある女性の写真を重ね合わせた作った合成写真には、私もとても驚きました。

 

ちなみに昨年、宮尾さんはクラウドファンディングに挑戦して詩集『女に聞け』を刊行されましたが、詩界にとっては快挙だと思います。

 

私は例の如く若冲詩シリーズ。今回は「月夜芭蕉図」をめぐる詩とエッセイを書いています。

 

両者ともどもぜひご高覧ください。

https://www.shikukan.com

2020年8月18日京都新聞朝刊文化面「詩歌の本棚・新刊評」

 詩を書く時、多くの書き手は白紙状態で詩を待つだろう。特に聴覚を鋭敏にして。私が考える詩作の実相は以下のようだ。まず日常で最も酷使される視覚を閉ざし、書き手は全身で耳を澄ます。詩の根源である未知の世界から音や声を感知するまで。耳を澄ます姿勢が定まれば、詩のヴィジョンは自ずと展開する―。
 神田さよ『海のほつれ』(思潮社)は、以上のような意味での聴覚の詩集だ。作
者は原体験である阪神・淡路大震災の記憶から東日本大震災、空襲、沖縄戦の死
者たちへ聴覚を伸ばし、言葉を繊細に共鳴させ、今も死ねない死者たちを幻視す
る。まるで作者自身も死者と化すかのように。詩は海底の藻のように揺らめきつ
つ展開し、読む者を生死の境へ導いていく。
「いつからかわたしは壺になって/海の底に没(しず)んでしまった/砂に埋まり
もう浮き上がれないだろう/ときおり潮のながれが/わたしを揺さぶる/漏れ出
るおと/内耳の水圧/くぐもる響き/声なのかもしれない/吐き出される 人の
/かつて聞いたことのある/震える声//欠けた傷口に/海草が絡み/小魚が入
って来たり出たりしている/穴口から波間に消える/魂の荒い息/記憶の綱はほ
どけ/喪の明けない海//死者たちの声で/ざらざらの表面は膨らんできた/深
淵の潮流にのせて/わたしはひび割れた音を/鳴らし続けている」(「奏でる壺」
全文)
 伊藤芳博『いのち/こばと』(ふたば工房)は、「高校籍の国語教員でありながら、教員生活の四分の一を特別支援学校で過ごし」た体験から生まれた詩集。作者は子供たちに言葉を教えながら、子供たちから「言葉にならないことばをいのちとして感じとることができた」という。言葉の習得が遅い子供たちの発語には、人が他者に向かって感情を伝える原初の喜びが満ちている。作者は全身で耳を澄ませ待ち続けた。言葉が小鳩のように飛び立つまで。言葉という命の、神聖な誕生に立ち会うまで。
「『おはようございます』//『おは よう こざい ます』/『!』//きょ
うもたちどまり/いつものごとく/あとずさりする/か/かたまってしまう/か
/にげていく/か/とおもっていると//はにかむように/ニッとした/『おは
 よう ござい ます』//かぞえてみると/二百五日!/『おは よう ござ
い ます』/まで/二百五日/ヨシくんは/あるいてきた/ぼくにむかって/い
や/ことばにむかって//ふいにあらわれるのだ/このように/まっていれば/
そう/まっていなければ/とおくから//そんな日は/とおくからやってくるも
のをうけとる/このなりわいを/ほこらしくおもい/ここからあるいていくヨシ
くんを/まばゆくかんじる//そして/それをことばにしているということに/
てをあわせる」(「いのち/ことば」全文)
 畑章夫『猫的平和』(草原詩社)は、生活のざわめきや匂いに共振しつつ、詩の
「結構」を巧みにつかみだす。大阪という土地に今も生々しく埋もれる戦争や差別や人情の歴史。作者は猫のようにその気配に耳を澄ます。すると不思議な奥行きが、短い詩に陰影深くもたらされる。
「吸い殻や竹串が/足元に散らばるガード下の酒場/頭の上を/満員電車が通過
する//少し離れたところの戦災慰霊碑/隅で半開きのビニール傘が/寄りかか
る//急な雨に広げられた/一本五百円は/雨がやめば置き去りで/骨の何本か
は折れ曲がり/いつのまにか 消える//ビールの泡が揺れる/暗いところで/
骨が光る」(「置き去り」全文)

『「毒虫」詩論序説ー声と声なき声のはざまで』(ふらんす堂)について今思うこと

新著の版元であるふらんす堂の山岡喜美子さんのブログhttps://fragie.exblog.jp/31284757/

に以下の文章を寄せました。ちなみに山岡さんのブログでは、新著の造本についても詳しく紹介されています。

 

『「毒虫」詩論序説ー声と声なき声のはざまで』(ふらんす堂)について今思うこと

            河津聖恵

 

 本書は、2015年から19年にかけて発表した詩論、エッセイ、書評、時評をまとめたものです。今読み返すと、書いた当時は見えなかった思いが、ひとつながりのものとなって見えて来ます。それは不思議な声となって聞こえて来ます。声にならない声でありながらも、そのようなものとして声でありたい声として。
 2015年の、戦争法案とも呼ばれた安保法案の可決は、私にとっても特定秘密保護法テロ等準備罪の衝撃に追い討ちをかけるものでした。当日の朝に感じた身体の重さと世界の暗さは、今でも忘れられません。その前々日国会前で聞いたシュプレヒコールも雨音も、そして自分の心の声さえも、全て敗北感に押しつぶされていきました。
 その時ふいに思い浮かんだのが、カフカの『変身』の、ある朝毒虫になっていたという不条理な運命を背負わされた主人公ザムザです。本書の巻頭の文章は、その実感にもとづき書かれています。小説や詩を読むという体験の本当の意味は後からこんな風に手ひどくやって来るのだ、と身をもって知らされました。個人的な経験以外でこんな衝撃を受けたことはありません。それだけ事態が深刻だったのか、あるいはいつしか自分自身がより「当事者」の側に身を置くようになっていたのかー。いずれにせよ、自分があらたな未知の場所に立っているのを痛感しました。
 けれどその「無力」な場所に降りて初めて聞こえて来た声々がありました。これまで親近感を持ちながら、じつは文字面を追っていたに過ぎなかった詩人たちの「声なき声」が、不思議にも封を解かれるように聞こえて来たのです。
 60年安保の際やはり国会前に立った茨木のり子、米軍政下で反米デモに参加し弾圧された清田政信、皇国少年だった自身の日本語への復讐のため、詩を書き続ける金時鐘、シベリアからの帰還後もはや祖国とは思えない日本で辛い記憶と向き合い続けた石原吉郎、最晩年軍国主義と病がもたらす闇の中で光を求め南へ旅立った立原道造。そして高良留美子、石川逸子、石牟礼道子ー。その他、現在の闇を詩で向き合おうとしている沢山の詩人たちー。
 その中でとりわけ近く伴走してもらったのは、革命の持つ希望と絶望に引き裂かれながら、病をおして、日本の詩の可能性を逆転の発想で掴み取ろうとした黒田喜夫です。風土や歴史という、現代詩の「現代性」とは一見真逆な次元から、陰画としての「現代性」を立ち上げようとしたこの詩人の言葉と、今回の本にある言葉は隅々までどこかしら共鳴していると言っていいでしょう。
 ちなみに黒田と関連する文章も三作収録しています。なによりもこの本のタイトルにある「毒虫」は、黒田の代表作「毒虫飼育」から借りたと言えるものです。巻頭の文章にもあるように、まずはカフカのザムザとしてあったものが、やがて「毒虫飼育」の「母」の鬢にまつわる「毒虫」へとイメージをおのずと広げていったのです。
 かつても今も現代詩の外部にありながら、深く現代的である黒田の言葉と発想は、難解でありながら非常に根源的で、それを反芻すれば「毒虫化」へと追いやられ続ける今の世界から、新たな世界を立ち上げうるいう予感と希望を感じています。今回の本を土台に、いつかまたこの詩人に向き合ってみたいと思います。
 今奇しくもウイルスという本物の毒虫が世界を席巻しています。その中で詩とは何なのか、詩人とは何者なのかをあらためて問うためのヒントをこの本が少しでも世に提示出来るならば、作者としては望外の喜びです。

第4詩論集『「毒虫」詩論序説ー声と声なき声のはざまに』が本日出来上がりました。

第4詩論集『「毒虫」詩論序説ー声と声なき声のはざまに』(ふらんす堂)が本日出来上がりました。

 

2015年から2019年にかけて発表した、詩論、エッセイ、書評、時評を収めました。

 

「詩は『毒虫』の声の側にある。正確には『毒虫』の中の人間の声、つまり毒虫化した世界によって、人間のものだからこそ通じないもの、『毒虫』のものとされてしまう声の側にある。」

 

 コロナウイルスという本物の毒虫が、私たちを孤独な戦いへ追い詰めている今、この本が多くの出会いに恵まれることを願っています。

 

 書籍サイトではやや購入が難しいようです。以下のふらんす堂オンラインならば在庫があります。https://furansudo.ocnk.net/product/2667

 

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