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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

年初に湧いた「詩論」

  「もう一つのこの世」あるいは「もう一つの秩序」を確固と、そして燦然と、この世の内で描き出すことーそれは、もっとも美しい抵抗ではないだろうか。詩であれ生き方であれ、 この世にまつろわずあの世に逃避することもせず。「もう一つのこの世」は詩人がうたわなくては存在しないが、ひとたびうたわれればそれ以外は存在しない、鮮烈な情景であるー。

 

   石牟礼道子さんの以下の文章からそんな「詩論」が湧きました。おそらく詩とは、人の心の深くに隠されている物や情景の輝きを探し出していく旅。言葉という祖代々の無限の想いを乗せている舟に身をあずけて。

 

  不知火海は光芒を放ち、空を照り返していた。そのような光芒の中を横切る条痕のように、夕方になると舟たちが小さな浦々から出た。舟たちの一艘一艘は、この二十年のこと、いやもっともっと祖(おや)代々のことを無限に乗せていた。それは単なる風物ではなかった。人びとにとって空とは、空華した魂の在るところだった。舟がそこに在る、という形を定めるには、空と海とがなければならず、舟がそこに出てゆくので、海も空も活き返っていた。

(石牟礼道子苦海浄土』第二部)