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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

昨年生まれた一つの原点

昨年12月に池田康さんの洪水企画から、
歌人の野樹かずみさんとの短歌と詩のコラボレーション第二弾Image453
『天秤−−わたしたちの空』を出しました。
(第一弾は、『christmas mountain−−わたしたちの路地』(澪標))。
この土曜日に歌人の集まりで同書が取り上げられることになり、
それをきっかけに再考するためにも、ここで話題にさせていただきます。

シモーヌ・ヴェイユ生誕百年を記念した
わたしたちのささやかなオマージュだったのだと思います。
ヴェイユのような
生も言葉も魂もまるごと詩人として生き尽くした人について
昨年、正確な意味で初めて私は知りました。
彼女の存在と言葉に
打たれることができた自分が嬉しかった。
まだ打たれることができたのですから。

なにはともあれ生誕百年の年が変わらないうちに
(12月でしたからぎりぎりセーフです)
詩を書くことで
まがりなりにも彼女に応答したという事実を自分の人生に刻めたことは
いつかふりかえれば私にとって
一つの原点(原点とは複数だと思うのですが)
として輝いているだろうと思います。
(以下引用は冒頭部分。最初の二首は野樹かずみさんの短歌です)

  天秤は(十字架)悲惨なもののほうへはげしく傾く 見捨てられつつ

  アッシジのフランチェスコをおもうひとは、それゆえに坂を降りていった

天秤から鐘の音は光のようにあふれだす
いま私たちにこぼれ落ちてくる音の影
石の広場で啄む鳩の声が隠されていた闇の水のように高まる
片隅の地獄によこたわる耳朶は
最後の聴覚で尖塔にかかるラオコーンの雲を見上げた
その紫の苦悶がゆるまり
物陰から差し出されるてのひらの窪みは慈しまれ
夕暮れがくずれる
ひとつの魂が夜を受肉した
あなたがオレンジのように存在する
また坂を降りる みしらぬ愛に包まれた素足で
今日を裸形に明日から昨日へと降りていく 
左手に幼な子 右手にスーパーの袋
無垢な魂と売れ残りの硬いパンには 世界を静かに引き降ろす力がある
あなたは身を任せていく