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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「PACE」6号/「私の中から今その声を聴く──アルフォンソ・リンギス『汝の敵を愛せ』

「PACE」6号が出ました。Pace
特集は「洛北出版という天使」。

「PACE」は
「2004年4月6日、立命館大学の学部生と院生十数人で、有事法制と日本政府のアメリカによるイラク占領への加担に反対するために立ち上げたネットワーク集団」(まえがき)です。
今号の編集長は竹村正人さん。
洛北出版は知る人ぞ知る、2004年に立ち上がった
京都の新しい知の発信基地としての出版社。
装幀も美しく内容も斬新な人文関係の書物を刊行しています。
京大近くの、まさに思想の隠れ家のような同社に私も一度伺ったことがあります。
代表の竹中さんの本作りの熱い思いもきかせていただいた記憶も。

今号は竹中さんへのインタビューと
同社刊行の主だった書物についての若き評者たちによる書評でLingis
構成されています。

私も光栄なことに
同社刊行第一号のアルフォンソ・リンギス『汝の敵を愛せ』の書評を書かせていただきました。
以下、冒頭部分だけを引用しますが、
これだけでも私がいかにリンギスの情動とそれを支える文体に惹かれたか、
分かっていただけると思います。

 私の中から今その声を聴く──アルフォンソ・リンギス『汝の敵を愛せ』
                                                 河津聖恵
 これは、情動という人間が隠し持ついわば動物的な謎の力をめぐって、書かれた書物だ。知が、感覚が、魂のうねりに連動して次々と言葉と化し、リンギスの思考や感覚が、みえない強烈な光彩となり頁から匂い立つ。情動という危険な力を、肯定する賭けに出た哲学である。だが賭けのない書物など、人間社会が死産をつづける紙束に過ぎない。この本はまぎれもなく生きている。このはかない社会に一匹の動物として挑む。闇の中の黒い光をぎらぎらと放つ手応えがある。
  情動。その概念の、物質的に社会に躙り寄るような響きが好きだ。「欲望」が、この消費社会が作り出す幻影(たとえばラカンのいう「対象a」、失われてそこにないことで価値を生むもの)への徒手空拳の飢えであり、失われたがゆえに欲望するというタイムラグを孕むとすれば、「情動」は今眼前にあるものが瞬間的に触発する、人間の中の動物の目覚めであり、そこから引き起こされる世界の無限のうねりといえる。それがタイムラグを含まないのは、惹く者、惹かれる者の双方が、世界という動物の熱い一枚の皮膚そのものとして永遠に繋がっているからだ。
 イースター島のモアイ像へ誘われた文明人リンギスの情動から、本書は身じろぎだす。
「テ・ピト・オ・ヘヌアで私ははっきりと悟った。はかりしれないほど遠方に向けられ、あの石を巨大な彫像へと変えた熱情は、大波のように盛り上がる火山それ自体から引き出されたのだ。あのがらんどうの目は、空の燦然(さんぜん)たる輝きをうつし、唇には風や海の歌が流れ、あの巨大な石の顔やその衣服は、情熱のように熱い溶岩や、不安そうにたえず動きつづける深海の色を湛(たた)えていたのだ。」