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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

「空と風と星の詩人〜尹 東柱の生涯」(イ・ジュニク監督、韓国映画)

「空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯」(イ・ジュニク監督、韓国映画)を、心斎橋シネマートで見ました。

 

じつは、期待しすぎて失望するのを恐れ(?)、あまり期待しておかないでおこうと思っていた映画だったのですが、予想に反し、詩人尹東柱の生と詩の本質を映画の表現力を駆使して見る者に伝える、とてもすぐれた作品でした。

 

110分という時間で、よくぞ尹東柱という詩人のすがたを描ききったなあと、監督と 俳優たちの力に感服しました。

 

ストーリーは、ほぼ尹東柱の現実の生涯をなぞってはいますが、いくつかの仮説による虚構も織り交ざっています。しかしそれは全く気になりませんでした。そもそも映画は物語だからというだけでなく、この映画の少なからぬ場面に、尹の詩の朗読がかぶさり、詩のことばがもつ真実性が、この映画固有の生命を与えているからです。

 

「新しい道」「白い影」「星を数える夜」「自画像」「弟の肖像画」「たやすく書かれた詩」…まだあったでしょうか。いずれも、かぶさる場面の選択は絶妙で、監督自身がいかに尹の詩と深く向き合ってきたかを感じさせます。詩の解釈が、映画を動かしているのだと思いました。

 

尹役のカン・ハヌル、従兄弟の宋夢奎役のパク・チョンミンの演技は、私の中の尹と宋のイメージをより鮮やかなものにしてくれました。この映画の主役は尹ですが、宋も尹と同じくらい大きな存在感で描かれています。

 

モノクロ映画ゆえに、当時の時代の雰囲気もリアルに迫ってきます。尹を尋問する日本人の刑事役のキム・インウは、日本語がすごく自然だなと感心していたら、在日コリアンの俳優だそうです。冷酷で鬼気迫る印象の底に、戦争という宿命への絶望も垣間見える演技に圧倒されました。

 

宋と尹は運命を共にする双子のような関係ですが、詩を純粋に愛する尹と革命を第一義におく宋の議論は、政治と文学、飢えた子供のために詩に何が出来るかという、今あらためて考えたいテーマに繋がっていて、興味深かったです。

「人々が自分の本当の心を表そうとする時代に、詩は力を持ち始める」というような言葉も語られていたと思いますが、尹東柱が当時抱いていた詩への思いに、この映画で一歩近づけた気がしました。

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