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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

2019年12月17日付しんぶん赤旗文化面「詩壇」(最終回)

 今現実を直視する詩人は、怒りの感情と無縁ではいられない。そして詩とは怒りを解消するのでなく、より深いものにする言葉の模索だ。
 水島英己『野の戦い、海の思い』(思潮社)には、沖縄の基地問題に対する激しい怒りがある。だが作者は感情をあらわにはせず、自身に耳を澄ませながら書く。徳之島出身の作者の魂は、沖縄の魂と繊細に共振する。
「基地の島の数々の不条理/昔も今も変わらない、日本人の/圧政者たちの厚顔無恥/暴くのは武器ではない/余りにも多くの戦死者たちの無念が暴くのだ/魂の飢餓感として、いまだ浮遊し続け/凝固して「命(ヌチ)どぅ宝」という不滅の言葉になる/その思(ウム)いに応え/明けもどろの花となって/太陽(ティダ)が燃え立つ/その場所を/沖縄と呼ぶ」(「沖縄」)
 宮尾節子『女に聞け』(響文社)にあるのは、男性優位社会がもたらす暴力性への怒りだ。原発や虐めや差別、そしてその帰結としての戦争への怒り。だが作者の怒りにはユーモアと情愛と、母が息子を抱きしめるような命の温もりがある。
「わたしが/恥ずかしい、格好をしなければ/こんなにも/恥ずかしい格好をして、ひとりで踏ん張らなければ/あなたは、この世に生まれて、来れなかった。/(略) /どんな姿から、いったい何が生まれるか。生まれないか。/男よ、だから/あなたが忘れている。産声を、わたしは知っている。//けんぽうきゅうじょうに、ゆびいっぽん/おとこが、ふれるな。やかましい!/平和のことは、女に聞け。」(「女に聞け」)
 宮尾の詩集はクラウドファンディングによって資金調達された。現状への怒りを抱え詩に期待する人が多いことに驚く。
 詩は人間の根源的な感情として、命の底から今もつねに溢れている。