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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

『ハッキョへの坂』 書評/2013年9月8日付毎日新聞読書欄(京都版)「読書之森」

 2013年9月8日付毎日新聞読書欄(京都版)「読書之森」に、『ハッキョへの坂』』の書評が掲載されましたので、以下転載します。

 

 「ハッキョへの坂」(河津聖恵著・土曜美術社出版販売)

 地に視線を落としゆっくり歩く。夢中になって進みふと顔を上げると、それまで思いもしなかった景色がぱっと現れることがある。坂や階段、路地といったありふれた日常風景は、私たちを非日常に誘(いざな)う仕掛けでもある。

  題名にある「ハッキョ」は朝鮮語で「学校」の意味。「ハッキョへの坂」とは京都市左京区北白川の京都朝鮮中高級学校に続く坂を指す。銀閣寺に向かう道を左にそれると背の高い木々に挟まれた一本の坂がある。坂の上の高台に建つハッキョは、「坂の下」から隠れて見えない。

 著者は1961年、東京都生まれ。詩集「アリア、この夜の裸体のために」でH氏賞を受賞した京都在住の詩人。偶然の出会いから同校に通うようになり、生徒の真摯(しんし)に学び生きようとする姿勢とまなざしに胸を突かれた。

 そんな詩人が朝鮮学校を高校無償化の対象外とする国の方針に憤りながら、「あなた」と「わたし」を引き裂く力に抗し、言葉を紡ぎ、本詩集を編んだ。  表題詩「ハッキョへの坂」は、「出会うべき」他者と「出会えなかった」詩人が、坂を上り下りした無数の学生(ハクセン)と出会い直す痛恨の一編だ。

 〈静かな高台のハッキョで 歌のようなウリマルを話すあなたを知らないまま 黄砂でかすんだ地上のグラウンドで もうひとりのあなたは 携帯電話を片手に佇(たたず)んでいた……もうひとりのあなたは 思わずてのひらを差しだし 花びらを受け止めまだ見ぬあなたに出会おうと 爪先立ちになる〉(「ウリマル」は朝鮮語の意)

 本詩は、「坂の下」にいる「あなた」の生き方を揺さぶってくる。また、「出会い」の素晴らしさとそれゆえの痛みも感じとれる。本詩集は計20編を収録。                                                                                                                 【松井豊】

以下は毎日jpのリンクです
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20130908ddlk26070347000c.html