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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

石原吉郎「位置」

 昨日の記事で話題にした石原吉郎の、「位置」という詩を紹介したいと思います。
 石原の生涯についてはウィキがありましたのでご参考下さい。
→ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%8E%9F%E5%90%89%E9%83%8E
 短いですが難解な詩です(石原の詩の多くは、このようにパラドキシカルかつメタフィジカルな難解さがあります)。この「位置」ということばには、強制労働における極限体験の中での、以下のような「位置」の記憶が重なっているのでしょう。
「ロシア語が出来たばかりに関東軍特務機関に組み込まれた自分の位置、マンドリン銃に囲まれたラーゲリ作業班の五列縦隊の位置。密林(タイガ)のなかの休憩時間。河のほとりでひとりうずくまるほかなかった位置。……まさに右でも左でもないその一点に自分を置くほかなかった『位置』である。」(多田茂治石原吉郎「昭和」の旅』)

位置Ishihara
                                  石原吉郎

しずかな肩には
声だけがならぶのではない
声よりも近く
敵がならぶのだ
勇敢な男たちが目指す位置は
その右でも おそらく
そのひだりでもない
無防備の空がついに撓(たわ)み
正午の弓となる位置で
君は呼吸し
かつ挨拶せよ
君の位置からの それが
最もすぐれた姿勢である

以下は、散文における「位置」に関する一節です。
「私が『位置』ということばについて考えるのは、自分自身がそこにいるよりほかどうしようもない位置であって、多分それは私自身、軍隊とシベリアに拘禁されつづけて来た体験がその背後にあると思います。つまり自分はそこにいるよりほか、どうしようもなかったという、その位置です。」(「断念と詩」)

「それから私が『位置』ということを考える時、戦争の中の一粒の分子としての人間を考えるのです。分子としての人間は押し流されてしまうわけです。ですから人間は無名の存在になっていますが、しかし、あそこで、生きたいという瞬間があるわけです。生きたいということは、彼が立っている大地の一点を守りたいということだと思います。」(「『位置』について」)