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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

ジャン=ピエール・メルヴィル「海の沈黙」

『海の沈黙』という映画をみました。Image519
ジャン=ピエール・メルヴィル監督、1947年製作。
岩波文庫にもあるヴェルコールの原作は読んだ方も多いのではないでしょうか。

1941年、ドイツ占領下でのフランスの地方都市。
姪と暮らす老人の家に、ドイツ将校が同居します。
彼は作曲家で、幼い頃からフランス文化へ憧れており、
二人に敬意を払い礼儀正しくふるまいます。
けれど、二人はまるで彼がいないかのように沈黙をつづけます。

彼は暖炉の前で無視を決め込む二人に、一方的に語りかけます。
自分自身について。
フランスとドイツが「結婚」することで生まれる
優れた文化の融合について。
そのようなものとしての戦争の正しさについて。

彼は語りつづけ、二人は海のように沈黙しつづけます。
(しかしいつしか、彼が居間にいないと、その沈黙こそが海のように家を支配するようになります)

休暇でパリに出た将校は強制収容所での大量虐殺を知ります。
フランスを破壊しつくそうとしているヒトラーの欲望についても。
占領は文化を融合するのだという彼の夢は、打ち砕かれます。

将校は絶望し、二人の家へ戻ります。
そして、明日戦場へ向かうと決意した、と告げます。
就寝の際彼が「アデュー」というと、姪も思わず「アデュー」とつぶやく。
それが「恋人たち」の最初で最後の会話となりました。

以上があらすじですが、戦後まもなく作られた時点では
この「沈黙」には大変なリアリティがあったのでしょう。
加藤周一さんによれば
占領下のフランスには二つの沈黙があったといいます。
ゲシュタポの拷問に耐え抜いたレジスタンスの「英雄の沈黙」。
そして一方で侵略者のドイツ人に対して、誇り高い軽蔑をもってのぞんだ「市民の沈黙」。後者の沈黙がフランス全土を海のように覆っていたのです。

明日の金里博さんの一人無声デモの「沈黙」もまた
京都の街路から海のように拡がっていくものであるはずです。