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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

8月22日付しんぶん赤旗「詩壇」

  二人の外国文学者の詩集が刊行された。中国文学者池上貞子氏の『もうひとつの時の流れのなかで』(思潮社)と英文学者向井千代子氏の『白い虹』(青娥書房)。両氏は共に敗戦前後に生まれた。
  二冊に共通するのは、多くの詩が他者のために書かれ、他者への愛の中から詩性が輝き出していることだ。そうしたスタンスは、文学の翻訳に携わる中で培われたのだろう。翻訳とは自分の言語を他者の言語に寄り添わせる仕事だからだ。
   池上氏の詩集は「故土を追われた人たちの哀しみ」に想いを馳せる。ネイティブアメリカン、亡命作家、原発被災者だけでなく、今を生きる者全てがじつは流浪の民だと看破する。キーワードは「風」。作者は、故郷に戻ることなく米国で亡くなった作家張愛玲(アイリーン・チャン)の終の住処を訪れた時、死者に寄り添う優しい風となった。
「あなたはもう拒むこともできないのに/ためらわれるのですが/いましばらくここにいさせてください/わたしは風です」(「風」全文)  
  向井氏の詩集は友人たちに捧げられる。「白い虹」とは自分に「勇気を与えてくれる友人たちの光の総称」。人間関係を大切にして書く姿勢を、氏はE・M・フォースターに学んだ。この詩集でも他者や自然に触れあおうと、風が吹きわたる。詩「パブロ・カザルスの『鳥の歌』」では故郷と平和を願うカザルスの弦と共鳴し、幻の鳥を風は追う。

「青空/山々/風/雲が流れる//カザルスが声を上げる/鳥と化したカザルスは/翼を広げ/翔び立つ準備を整える//うち震えるピアノ音に乗って/鳥は空に消える」

  詩は他者に寄り添い、思いに共鳴する風になれるのだ。