ウクライナといえばこの詩を思い出す。あまりにも美しく悲しい詩です。今このとき、さらに。
(無題)
ハコヤナギよ、お前の葉が暗闇のなかを 白く見つめている。
ぼくの母の髪は 決して 白く ならなかった。
タンポポよ、こんなにも緑だ ウクライナは。
ぼくの金髪の母は 帰って来なかった。
雨雲よ、お前は 泉のほとりで ためらっているのか?
ぼくのひそやかな母は 皆のために 泣いている。
丸い星よ。お前は 金色のリボンを結ぶ。
ぼくの母の心臓は 鉛で 傷ついた。
樫の扉よ、誰が お前を 蝶番から 外したのか?
ぼくの優しい母は 来られない。
(以上全文)
ツェランはルーマニア王国・ブコヴィーナ地方の首府チェルノヴィッツ(現・ウクライナ)生まれの、ユダヤ人詩人。チェルノヴィッツ は1941年にナチスが占領、ツェランの両親は1942年強制収容所で死亡。父はチフス、母は頸を撃ち抜かれた。ツェラン自身も、戦後も密かに続くユダヤ人迫害に苦しみ、49歳の1970年、セーヌ川に身を投げて亡くなりました。