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河津聖恵のブログ 「詩空間」

この世界が輝きわたる詩のプリズムを探しつづける。

『環』48号に「詩獣たち」第五回「かがやける世界の滅亡にむかって──寺山修司」を書いています。

『環』48号(藤原書店)にPhoto
連載「詩獣たち」第五回「かがやける世界の滅亡にむかって──寺山修司」を書いています。

寺山修司
戦争の闇と戦後の光の断絶を、身体と言葉のただなかに引き受け
詩=演劇の世界を見事に跳梁した、
日本において詩獣というに最もふさわしい詩人です。

寺山は「家」と「歴史」を失った戦後の中に
「虚構」の可能性を見出しました。
あるいは
ふたたび狂った「歴史」の歌をうたいはじめた「現実」と対峙するためにこそ
寺山演劇の光はありました。
それは歴史の闇を引き裂く虚構の強烈な光です。

大学生の時にみた『奴婢訓』『レミング』のあの一回性の虚構きわまる鮮やかさを
私はいまだ希望のように夢のように忘れることができません。
オマージュとしてのこの小論を書くことができ、幸せでした。

「むき出しのニクロム線の中を走ってゆく熱い主題の電流よ! 私のアパートから刑務所の炊事場まで地中を驀進してゆくガスよ!/ほとばしる水道の地下水! そしてまた、告発し、断罪する一〇〇の詩語のひしめきの響きよ! それらが一斉に告げる綱領なき革命の時のポーよ! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー! ポー!」(「ロング・グッドバイ」2)
 寺山の「地理」は、あらゆる歴史がポー!と各所で叫びをあげる新鮮な荒野だ。起こった歴史も起こらなかった歴史も(起こらなかった歴史も歴史のうちであるとは寺山のモットー)、幼年期に取り残されたままのかくれんぼの鬼も、引き出しに忘れられた蝶も、ふたたびそこに蠢きだす。あるいは「地理」とは、片眼をつぶることで生まれる二重の視野(「閉じた片眼のなかにあらわれる暗黒が、あいた片眼で『見た』ものの証人となる」(「書を捨てよ、町へ出よう」)だ。その時歴史という幻想は消え、世界は一面、交感の電流の走る野と化す。そして詩獣が駆け出す。野から空へと飛翔し、飛翔と共に空をひらく。
 やがて寺山の「地理」は現実と対峙し、現実の証人となるべき虚構=未曾有の演劇空間を、動乱の六〇年代に鮮やかに現出させていく。」