広瀬隆『福島原発メルトダウン』(朝日新書)。
今、この国に生きる人に読まれるべき最良の書だと思います。
福島原発の事故が起こった後に書かれた本です(4月27日脱稿)。
しかし、恐れていたことが起こったという切迫感の中で
一気に書かれたのでしょう。
「むずかしい専門用語、それから『想定外』や『ただちに影響がない』といった言い回しは使わずに」、原発と地震について自分が知っている「当たり前の事実」と「近い将来の予測」を中心に書かれています。
原発の危険な構造と発電の仕組み、東電や政府の嘘、内部被曝の怖さ、地震との関係……
書かれていることはたしかに、テレビや新聞に登場する「専門家」」たちからきいたこともありますが、しかしそれらのことがらを、このように、分かりやすいかたちで、広い視野で説明されたことはなかった。
事故の必然性を説明し、危険を予測する方向性で書かれているので、ただ不安に混乱していた私の心にも、すーっと一本筋が通っていきました。
「専門家」たちはみな、あとづけで、しかも何事もなかったように説明してきた。
何か悪いことが起きるまでは、「ただちに問題がない」とか、少しずつ前進しているとか、かえって不安をもやもやさせることばかりを言ってきた。
しかし広瀬さんは、「人々は本当の危険性をしっかり教えてもらって初めて、沈着で、しかも迅速な対策をとれるのです。ここでは、原発震災の危険について私の知る限りをお話しします。それを判断材料にして対策をとるかどうか、決めるのは読者のみなさんです」と言います。まったくそのとおりです。
そう、私もまた曖昧な対策や見通しを一方的に与えられるのではなく、日々刻々生じる具体的な危険性について知りたいのです。そして今日一日の自分の選択に納得した上で、今日一日に自分が出来ることをしていきたいのです。
広瀬さんは、これ以上の事故が起こったらもう沈黙する、と書いています。もはや書く意味がないから、と。メルトダウンが次々と暴かれる中、事態は深刻化していますが、良識ある書き手に沈黙が訪れることのないよう、ただ、祈るしかない。
「私のことを『狼少年』だと思ってください。本書に嘘はありません。明日には狼はやって来ないかもしれない。でも、それは狼が来ないのではなく、来るまでに時間がかかっているだけです。最後に必ず狼は襲って来ます。そのときまでに何の対策も打たなければ、羊どころか私たちの生活すべてが奪われてしまうでしょう。」
これからはこの本と対話しながら、日々推移する原発報道をみつめていこうと思います。